お侍様 小劇場

   “甘味をどうぞvv” (お侍 番外編 101)
 


今日はまた朝からずんと冷え込んで、
この冬最高の寒さとやらを更新したらしいのだが。

 「…………、」

それとは別な案件にて、何とはなく落ち着けないものか。
昼食も済み、後片付けも終えたところで、
次男坊の白い手が…ちょっとと招いてのさあそれから。
リビングの陽あたりのいいところ、
ふかふかしたクッションを凭れやすい傍らに居並べたソファーへと、
どうぞお座りと導かれておりながら。
だっていうのに何とも落ち着けないですという態度にて、
腰を浮かせかかっては、いやいや待て待てと座り直しの繰り返し。
ああそうだ、
手持ち無沙汰なときほど自分が居る場所に、
今は行けないものだから、それで心持ちの座りが悪いんだと。
こっそり はふりと吐息をつくのがまた、
当事者には悪いが、傍観者には少々可笑しかったりもして。

 「いい加減、腹をくくってはどうだ。」

こちら様もまた、
クッションやテレビのリモコン、雑誌と同じような扱いで、
此処にいて彼をば慰めよとされたクチらしき、
一応は家長の勘兵衛が。
その蓬髪を暖めるほどいいお日和の陽の下、
視線を落としていた新聞から顔を挙げ、
なかなか落ち着けないらしい恋女房殿へと声を掛ければ。

 「そうは仰せですが、勘兵衛様。」

久蔵殿が不器用だとは申しませんが、
それでも慣れない台所ですよ?
何かしら思わぬ怪我でもなさったらどうしますかと。
青玻璃の目許を仄かに歪め、苦しげに口にした七郎次。

 「毎日、ほぼ1日中立っている私でも、
  ついうっかりと油が飛んで来て小さな火傷を負ったり、
  包丁や缶の口などで指先を切ったりしかねませぬのに。」

 「おお、そんな災禍に遭うておるのか。」

どれ、どの手だ見せてご覧と、
座っていたところからわざわざ立ってくる勘兵衛だと見るや、

 「最近の話じゃありませんてば。」

ものの喩えですとばかり、何でもないないと示すよに、
両手を大きく振り回すところが…今更何を焦っているのだか。
案じられるような不手際がないということのみならず、
此処には同座していないとはいえ、次男坊も在宅中とあって。
このごろの勘兵衛が 無頓着にもひょいと、
こちらを難無く掻い込んでしまう図になだれ込むこと、
ついのこととて警戒したのかも知れず。

 「そうだろうな。
  夜ごと隅々まで確かめておるのに、見落としがあろうはずが…。」

 「勘兵衛様っ。//////////」

とんでもない方向へと話が及び掛け、
慎み深い女房殿が、真っ赤になったのは言うまでもなくて。


  …… 何ゆるんでんでしょうか、倭の鬼神様。
(大笑)


そうこうするリビングへまで、ふわりと香って来たのは、
甘くて優しい、何か焼き菓子の匂いだったので。

 「ほれ、案じずとも良好なようではないか。」
 「…本当ですね。」

そんな暇があったとは思えないのですけれど、
もしやしてゴロさんにでも何か教わったんでしょうかねと。
そこに何か形のあるものが漂って来たかのように、
やさしい香りのする辺りを見上げ、
端正な白い横顔、ほわりと和ませる七郎次だったのへ。

 「…そうさな。」

甘党同士で情報提供くらいは しておるのやも知れぬと。
ソファーのひじ掛けへと肘をつき、
精悍なお顔をほころばせると、微かに伏し目がちとなり。
同意しながら くつくつ微笑った勘兵衛だったのは。
彼へと言うた通り、
可愛らしいことを企てたのだろ久蔵へと感じ入った、
真っ当な感慨からのそれであり。

 “…大方、
  明日の当日は儂が何かしら構えておるのだろと見越しての、
  前哨戦もどきなのだろうよな。”

もしかして七郎次さん自身…どころか、
全国的にも気づいてない人が多いかも知れぬのだけれど。
明日は、日本限定のそれながら“愛妻の日”だそうなので。
小じゃれた贈り物なぞ構える勘兵衛だったら
何だかちょっと口惜しいとでも思うたか。
休みで1日中使える今日のうち、
対抗処置をとろうと思った次男坊なのかも知れぬと。
そこへと気づいてのこと、
こちら様は…その可愛い敵愾心が楽しくてしようがない、
勘兵衛様だったりする辺り。


  大人げないですよ、宗主様。
(苦笑)





   〜Fine〜  11.01.30.


  *最近ちょこっとご無沙汰ですが、
   次男坊は相変わらず、
   おっ母様ラブだってところをお一つ

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